茶箱
問題を克服しようとする、子どもの成長が頼もしく感じる本よ
安田夏菜『むこう岸』
【著者】安田夏菜
【出版社】講談社
哀れんでいるものは、自分の放つ匂いに気づかない。
哀れまれているものだけが、その匂いに気づくのだ。
(p.93)
全身全霊、努力したものが勝ち組となり、そうでないものは負け組になる。ほんとうにそうなのだろうか?
(p.122)
有名進学校で落ちこぼれ公立中学に転校した、裕福な家庭で育った少年、和真。
かたや父を事故で亡くし、母と妹と三人、生活保護を受けて暮らす少女、樹希。
まったく違う環境で育った二人は、お互いを疎ましく思っていた。
しかし、お互いことを知るにつれて、自分だけが現状の環境に苦しんでいるわけではないと、相手を思い合えるようになる。
そして二人は「貧しさゆえに機会を奪われる」ことの不条理に立ちっていく。
貧しさは、将来をあきらめる理由になんてならないのだ。
*2021年、難関私立中学(広尾学園中学)の入試で出題された小説です。
● 子どもは選べない家族の貧困(ヤングケアラー)
● 親子関係 親に言えない子どもの本心
● 困難を乗り越える力
● 目に見えるものがすべてではない
2021年、広尾学園中学(国語)を解いてみた
出題された部分
物語中盤部分
①公立中学に編入した和真は、同じクラスの樹希に弱みをにぎられ、樹希の友達アベルに勉強を教えてあげる約束をさせられる
② 思いのほかアベルに勉強を教えることは楽しく、和真は教えている場所”カフェ・居場所”の居心地のよさを感じる。
③ 和真は、帰り道に偶然、以前通っていた難関私立中学でクラスメイトだった桜田君と会ってしまう。
④ 和真は学校で樹希の友達の城田さんに、樹希の家庭環境について尋ねる
問題を解いてみた感想
● 登場人物が多いので、かれらの関係性をつかむことが必要
➡本文前の説明文章をしっかり読むべし
● 文章の流れを問う問題あり
➡順番どおりに問題を解いていけば、物語の内容もつかみやすい
● 対比してみる
➡和真と樹希 和真と桜田君の関係を比べて、和真の立場から相手の気持ちを考えてみる
● 和真の気持ちの変化を読みとく
➡弱みを握られてイヤだな、わりと居心地いい、見下されてる、心の小さい自分に気づいて苦しいなど。和真の気持ちがコロコロと変わっていくのを丁寧に追っていく必要あり
茶箱
魅力的な物語に引きまこれてしまうから、感情を入れ込みすぎないようにね
安田夏菜『むこう岸』おすすめ度
中学受験生へのおすすめ度
★★★(3点満点)
子どもたちぜひ読んでほしいし、親世代にもぜひぜひおすすめの一冊
大人になった私もそうですが、人生では自分と同じような家庭環境のお友達としか出会えないことが多いのが現実です。
本を通して、世の中にはいろんな家庭環境の人がいること、そして、多くの人たちが一生懸命生きていることを知ってほしいです。
茶箱
和真の家庭をみて「あら?我が家のことかしら?」と思っちゃうご家庭もあるかもしれないわ
安田夏菜『むこう岸』役立つちょこっとメモ
● 作者の安田夏菜さんは、1961年兵庫県生まれ。『あしたも、さんかく 』が2013年第54回講談社児童文学新人賞に佳作入選しデビュー。
● フリガナなし
● 本の長さ:258ページ(単行本)
● 初版:2018年12月
● 第59回日本児童文学者協会賞受賞作品
● 貧困ジャーナリズム大賞2019特別賞受賞作品
● 2019年、国際推薦児童図書目録「ホワイト・レイブンズ」に選定
2021広尾学園中学の入試問題 安田夏菜『むこう岸』
2021広尾学園中学の入試問題で出題された『むこう岸』は、それぞれの問題を抱えている子どもたちがどんどん成長していく姿が頼もしく感じる物語だったわ。
生まれてくる環境は選べないけれど、自分の人生は自分で決めることができることを忘れないでほしいです。
茶箱
つらい現実に立ち向かいながら、逃げることなく真正面から問題を克服しようとする子どもの成長が物語になっているわよ
子どもにもおすすめしたいけれど、大人にもいろんなことを考えさせる読み応えある本だったわ
*読みどころや試験問題の感想は、あくまでも私個人の意見です。
続けて学ぶための本は?
①『ギフト、ぼくの場合』
【著者】今井 恭子
【出版社】小学館
ヤングケアラー問題が物語のテーマ。
両親が離婚し、母と妹と3人で住んでいる外山くん。
仕事が忙しいお母さんに変わって妹の面倒をみている。(衝撃的な事件あり!)
お父さんの影響でギターが上手だった外山くんは学校活動のバンドで、代役としてギターを弾くことになる。
いろんなことが上手くいかない人生のなかで、ギターは外山くんの生きる証しなのだ。
*2021年、慶應義塾湘南藤沢中等部の入試(国語)で出題されました。
①『受験のシンデレラ』
【著者】和田秀樹
【出版社】小学館
余命宣告を受けた、東大合格率9割の塾の経営者五十嵐が、自分の人生最後の生徒に選んだのは、コンビニで偶然出会った少女、真紀。
五十嵐は、真紀の計算感覚から内に秘めた可能性を感じたのだ。
真紀は、家庭環境や経済的に恵まれていないため1ヵ月で高校を辞め、バイトをしながら生活をしている。(本来なら高校2年生)
五十嵐の残りの人生をかけ、真紀への東京大学合格レッスンを始める。
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