『金の角を持つ子どもたち』
おまえが大人になったら、その能力を他の人にもわけてほしいんだ
(中略)
お前のようになりたくてもなれない人が、世の中にはたくさんいる。いろいろな理由で不本意な生き方しかできない人が、驚くほどたくさんいるんだ。おれは美乃里のその恵まれた能力を自分だけのものにせず、多くの人にわけてあげてほしいと思っている。
(p.247)
▶▶受験前日に、中学受験塾の講師加地が、1年間塾でトップの成績をとり続けた優秀な受験生美乃里にかける言葉
中学受験生の多くは、恵まれた環境で育った子どもたちだ。
世の中には自分で未来を切り開ける子もいれば、そのスタート地点にも立てない子もいる現実を伝える塾講師の加地の一言は、恵まれた子どもにこそ生涯を通して忘れてほしくない言葉だ。
12歳の女の子に、強く生きることができる子に弱い人を見捨てないでほしいと真摯に頼む大人の加地の姿にも心うたれた。
茶箱
今年一番号泣した物語よ
中学受験が関係ない人にも、ぜひぜひ読んでみてほしい本だわ
中学受験を題材にした物語
【著者】藤岡陽子
【出版社】朝日学生新聞社
中学受験戦争が過熱している現在。
中学受験をどんなふうに考えていますか?
ただ希望の学校の試験試験をパスするために勉強を頑張るもの、と安易に考えていませんか?
いやいや、中学受験は受験生本人だけでなく、周りの人々にも大きな影響を与え、大人も子どもも大きく成長させてくれるものなんです。
『金の角を持つ子どもたち』は、子どもをもつ親、中学受験を考えている親子はもちろん、大人も子どもも読んでほしい一冊です。
受験に立ち向かう子どもたちは、小さな大人なんです。
いつまでも親の考えているような、なにも考えていない子どもじゃない。
彼らは大きく羽ばたいていく直前なんです。
親は、それをもう見守るだけ。
ちょっとさみしい。
でもそれが”成長”なんだと、喜びたいものです。
茶箱
必死に立ち向かった中学受験は、子どもも大人も成長させるわね
あらすじ
*3つの連作短編集
①「もう一度、ヨーイドン」
中学受験生俊介の母の物語
熱中してきたサッカーを辞めて、日本最難関の中学を受験をしたいと言い出した小6の俊介に対して、一時の気の迷いだろうと反対する父親と、息子を応援したいという母親。
実は母親には辛い過去があった。
俊介の頑張りに、母親にも変化が現れる。
②自分史上最高の夏
中学受験生俊介の物語
俊介が中学受験をして難関中学に進学したいのには理由があることが明らかになる。
必至で頑張った夏を乗り切った後に襲ってくる受験への不安もえがかれる。
③金の角持つ子どもたち
中学受験生俊介の塾の講師、加地36歳の物語
加地と暮らす弟(33歳)は、過去に引きこもりだったため、今も上手に人生を歩めていない。
弟の存在を見ないものとし続けた自分を悔いている彼が、真摯に子どもたち(弟にも)に向き合う姿が描かれている。
母も子どもも、塾の講師も、未来を切り開くため今を一生懸命生きている。
そんな彼らの姿に心打たれる物語。
茶箱
どの物語も泣けたけれど、加地先生の物語は何回も読んで、何回も号泣したわ
藤岡陽子『金の角を持つ子どもたち』は、中学受験の理解が深まる物語です。
頑張り屋さんの俊介君と塾講師の加地先生が、中学受験のあれこれを、教えてくれます。
茶箱
加地先生の子どもに対する誠意ある姿勢がカッコイイのよ
次に読みたいおすすめ本
『むこう岸』
【著者】伊吹有喜
【出版社】双葉社
有名進学校で落ちこぼれ公立中学に転校した、裕福な家庭で育った少年、和真。
かたや父を事故で亡くし、母と妹と三人、生活保護を受けて暮らす少女、樹希。
まったく違う環境で育った二人は、お互いを疎ましく思っていた。
しかし、お互いことを知るにつれて、自分だけが現状の環境に苦しんでいるわけではないと、相手を思い合えるようになる。
そして二人は「貧しさゆえに機会を奪われる」ことの不条理に立ちっていく。
*2021年、私立広尾学園中学の入試で出題された小説です。
茶箱
貧しさは、将来をあきらめる理由になんてならないのよ
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