2022年2月19日更新
小説が出版された当時の社会背景を知り、「なぜこの時代にこの小説を作者は書いたのだろうか?」と考えると読書の楽しさは倍増します。
出版された当時の社会背景を思いうかべながら読んでほしい!【江國香織おすすめ長編小説】を紹介します。
リアル社会とは無縁ぽいと思われがちな江國ワールドを、リアル社会と照らしてみると面白いよ
大人気作家の江國香織さんとは?
みずみずしい感性、口にだせない秘めた女心、どこか滑稽な男の恋心を描く。
一度その作品を読むと、虜になってしまう魅力ある作家さんです。
- 1991年『きらきらひかる』
- 1994年『ホリーガーデン』
- 1995年『なつのひかり』
- 1996年『流しのしたの骨』
- 1996年『落下する夕方』
- 1999年『冷静と情熱のあいだ Rosso』
- 1999年『神様のボート』
- 2000年『薔薇の木、枇杷の木、檸檬の木』
- 2001年『ウエハースの椅子』
- 2001年『東京タワー』
- 2004年『スイートリトルライズ』
- 2004年『思いわずらうことなく愉しく生きよ』
- 2004年『間宮兄弟』
1991年『きらきらひかる』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
妻の笑子はアル中、夫の睦月はホモ
合意のもと結婚した夫婦の日常の葛藤を描く
平成になったばかりの当時、センセーショナルな内容の小説だった!
繊細な感覚で研ぎ澄まされた江國さんの文章が、上手く生きるのが難しい夫婦二人の感情を表現しているよ
普通と普通じゃない境界線って何なのか?
令和になっても話題が尽きない問題よね
●『きらきらひかる』秘密メモ
夫の睦月とその恋人紺くん、そして妻の笑子のその後が描かれた短編小説があります。
(『ぬるい眠り』にある短編)
睦月と笑子の結婚生活は続いているのか?
睦月と紺くんはラブラブなのか?
睦月と笑子と紺くんの三人の関係には「え~!」と驚きの展開が待っています。
単行本出版年:1991年5月(平成3年)の社会背景
● バブル経済の崩壊
● 湾岸戦争が始まる
● ソ連が崩壊
世間ではまだバブルの名残がプンプンしていて「不況なんてまさか」といった感覚。
だが、日本の暗い不況時代は確実に始まっていた。
人々は不況よりも、遠い国で始まった”戦争”や、大国ソ連の崩壊に恐怖を感じていた。
とにもかくにも、新時代を感じさせる年だった。
1994年『ホリーガーデン』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
しつこく失恋を引きずる果歩と先のない不倫を続ける静江
性格・恋愛観もちがう幼なじみ大人の女二人の友情と恋愛物語
私はこの本が一番好き
でも私の高校生以来の仲良しの友達(江國ファン)はつまらないと言うのよ
ほら、仲が良くても大人の女の友情って難しいのよ(笑)
それにしても友達との付き合い方や恋愛って、どうして大人になるほど難しくなるのかしらね?
●『ホリーガーデン』秘密メモ
大人の女の友情と恋愛の難しさがわかる物語。
「大人だから」ひとりで辛さを乗り越えなくちゃと思っている果歩がつぶやく一言一言にグサリとする人も多いはず。
(マニキュアをしているのは)
「そうしないと、自分が大人だっていうことを忘れちゃうからよ」
【江國香織『ホリーガーデン』p.113】
単行本出版年:1994年9月(平成6年)の社会背景
●関西国際空港が開港
●F1レーサー、アイルトン・セナがレース中の事故で死亡
バブル時代に竣工が始まったゴージャスな建物が完成し姿を現す一方、社会にはバブル時代のうかれた雰囲気は消えかけていた。
そんな社会のなかで、飛び込んできたセナの死は、華やかなバブル時代に本当の終焉を告げた気がした。
1995年『なつのひかり』
【出版社】集英社
◆◆あらすじ◆◆
21歳になる私と、仲良しの3つ違いの兄を巻き込む夏の不思議な日々の物語。
「これ江國さんの小説なの?」と思ってしまうほど不思議な小説
現実と過去、不思議な世界を行き来する、ちょっと村上春樹ぽいストーリー展開にワクワクするわ
頭をやわらかくして読むのがおすすめ
登場人物のキャラが濃いのも魅力よ
●『なつのひかり』秘密メモ
兄の子どもの名前”陶子”は、江國小説『薔薇の木、枇杷の木、檸檬の木』にも登場する人物と同じ。
江國さんの小説(短編を含める)には、ちょくちょく同じ名前の人が登場する。
お気に入りの名前なのか、同一人物なのか?は不明
●阪神・淡路大震災発生
●オウム真理教のサリン事件
●Windows95が発売
年始から大地震がおこり、続けて前代未聞の大事件発生と暗い一年になった。
一方で、コンピューターが一般家庭に普及が始まり、新時代を予感させる年でもあった。
1996年『流しのしたの骨』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
ことちゃんには、姉そよちゃん、姉しま子ちゃん、弟の律がいる。
4人姉弟の家族の日常は、波乱もありながらもマイペースにすすんでいく。
「そうか、家族だけにしかわからない行動や考え方があるんだ」
とそれぞれの家族がもつ不思議な世界に気づかされる
江國さんが書く「よその家」のおもしろさとあたたかさを感じる物語だよ
●『流しのしたの骨』秘密メモ
ことちゃんがお付き合いを始める深町直人くん。
たくさんの江國香織作品の中で私の一番のお気に入り男性です。
深町君と手をつないでご飯を食べるために、左利きの練習をすることちゃんがとっても可愛い。
●自民党が単独政権を3年ぶりに取り戻した
●「O-157」の食中毒が流行
見えない敵、ウィルスの恐ろしさが日本中をかけめぐった。
1996年『落下する夕方』
【出版社】角川書店
◆◆あらすじ◆◆
長年付き合っていた健吾から「ほかに好きな人ができた」と突然の別れを告げられた梨果は、別れの原因となった華子と同居することになるのだが。
たった一人の女性の登場でまったく違う人生が始まってしまう男女がいる
人生ってほんとうにわからないな
それにしても、不幸を呼び起こす魔性の女?華子の自由な生き方にはちょっと憧れるわ
●『落下する夕方』秘密メモ
物語のなかでは、翌年1997年に中国に返還される香港が出てくる。
ちなみに、まだまだ江國小説のなかには携帯電話の存在はありません(笑)
男女だけでなく、親子でもありがちな好意の卸売り、世話好きさんには痛い一言があります。
自由な女、華子の言葉
「『好意を注ぐのは勝手だけれど、そちらの都合で注いでおいて、植木の水やりみたいに期待されても困るの』」
【『落下する夕方』p.144】
●ポケベルの利用者数が過去最高になる。
ポケベルとともに、PHSサービス等が普及し格安で携帯電話が利用できるようになり、携帯電話の契約数も急増した。
1999年『冷静と情熱のあいだ Rosso』
【出版社】角川書店
◆◆あらすじ◆◆
舞台はイタリア。
世紀末を目前に再び動き出す!あおいと順正の恋愛
2000年あおいの30歳の誕生日、再開を約束した日を迎える二人の運命は?
若い頃のちょっとした心のすれ違いって、時間が経つにつれて気になって仕方ないのよね~
「2000年」「30歳」など、人生の節目を迎える時って、特に気持ちが強くなるのよ
クールで神秘的なあおいの想いが、ひしひしと真っすぐに伝わってくる物語。
あおい同様、早く順正に会いたくてたまらくなったよ(笑)
●『冷静と情熱のあいだ Rosso』秘密メモ
辻仁成さんの書く『冷静と情熱のあいだ Blu』と対になっている小説
結末の印象がまったく違うので、必ず2冊セットで読んでほしい。
私は江國さんのRoseを読んでから、辻さんのBlueを読むのがおすすめ。
●EUの単一通貨としてユーロが導入される
●世紀末のノストラダムスの大予言に怯える人多発
『冷静と情熱のあいだ』の舞台となったイタリアを含むヨーロッパは大きな転換期を迎えた年になった。
1999年『神様のボート』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
ママの骨ごと溶けるような恋から生まれた私(草子)
消えてしまったパパを待つ、ママ(葉子)と私の漂流の旅が始まる。
ママ(葉子)の恋愛物語でもありながら、娘(草子)成長小説。
私はぜったいにこんな漂流生活ムリ!
娘(草子)の立場で読んだしまったときに思った感想
正直、堅実な人生を送ることがモットーの私には理解が難しい小説だった(笑)
でも、恋に落ちたらわからない
その恋がすべての人生を送るのもアリなのかも
●ゼロ金利政策が始まった
2年前には山一証券の倒産など、日本は不景気真っ只中。
不況に対する経済対策がとられたが、先が見えない暗い社会状況のなかで、たくさんの人は「ノストラダムスの大予言」が心のどこかで気になっていた。
2000年『薔薇の木、枇杷の木、檸檬の木』
◆◆あらすじ◆◆
いろいろなタイプ9人の女性たちの恋愛模様が書かれた物語。
登場人物の男女たちが絡み合うストーリー展開がおもしろい。
人と人が絡み合い、繋がり、この本は何回読んでもおもしい。
自分に似ているのは誰かな?
誰のような生き方をしてみたいかな? と考えながらよむのがおすすめ。
自分の考えや生き方に信念をもった、強い女性たちの姿が潔くてステキなのに、男性はみんな弱っちく見えるのもおもしろいよ
●『薔薇の木、枇杷の木、檸檬の木』秘密メモ
芸能人が多く住む「港区広尾」の街を楽しめる小説。
有栖川公園や都立日比谷図書館、公園そばのマック、ケーキ屋さんのエヴァンタイユ、ナショナルスーパーマーケットなどなど。
広尾を散歩しながら、小説の世界を楽しむのもおすすめです。
『流しの下の骨』でも広尾の街は登場します。
広尾は江國さんの母校(中学高校)がある街なのでお気に入りなのかな。
●沖縄サミット開催
沖縄サミット(第26回主要国首脳会議)を記念して、今ではほとんどみかけない二千円紙幣が発行された。
新しい世紀が始まったのに相変わらず不景気、まだ明るい未来はまったくみえない社会状況だった。
2001年『ウエハースの椅子』
【出版社】角川春樹事務所
◆◆あらすじ◆◆
中年にさしかかった私(38歳)。一人暮らしのマンションにやってくるのは恋人(妻子あり)と妹。
リアルなのか夢の中なのか紙一重のような暮らしの日々と、ひょっこり顔をだす「死」「絶望」。
「江國ワールド」全開!妻子ある恋人との恋愛小説。
後にも先にも進めない恋愛中にも、年齢だけは確実に進んでいく。
夢の中で生きているような揺れ動く女性心理が、どこか空怖ろしかった。
●『ウエハースの椅子』秘密メモ
タイトルのセンスが抜群にステキ!
物語では、主人公の私にも恋人にも(妹すら)名前はない。
恋人の男性は『ホリー・ガーデン』の静江の恋人に似ている。
余裕のある大人で、水泳をするし、フットワークがよく、アートを仕事にする彼女がいる妻子持ちの男。
あの男が相手を変えて登場したのか!と思うほどよく似ていた。
●ニューヨーク同時多発テロ発生
●小泉内閣発足
飛行機がビルに突っ込む映像がリアルなのか、映画なのか?自分の目が信じられなかったのを覚えているし、生涯決して忘れないだろう。
日本では”変人”とよばれた小泉首相が誕生し、社会の仕組みが大きく変化しそうな期待と不安がただよっていた。
2001年『東京タワー』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
大人の女性(誌史)との恋愛(不倫)を静かに突き進む透。
同世代の彼女がいながら、年上女性(熟女)好きの耕二。
大人と子どものはざまにいる男子大学生二人の恋愛物語。
年上女性に憧れる若い男の子たちは、どうして年を取ると若い女の子が好きになるのかしら(笑)?
10年20年後の透と耕二の恋愛模様をみたいわ
●『東京タワー』秘密メモ
主人公が男子大学生二人。
女性心を書くのが上手い江國さんの手がけた珍しい小説だ。
江國さんって、女子よりも子どもぽい男子の気持ちを書くのも上手いなと思う。
『東京タワー』を美しい映像で描いた、ジャニーズの岡田准一さんと黒木瞳さんが出演した映画も話題になりました。
●3月に大阪にユニバーサルスタジオジャパンが完成
●9月にディズニーシーがオープン
大人も楽しめる巨大テーマパークのオープンが続いた年。
余暇を上手く楽しめる生活を目指し始めた、ゆとり日本の象徴か。
2004年『スイートリトルライズ』
【出版社】幻冬舎
◆◆あらすじ◆◆
人形作家の瑠璃子と2歳年下の夫、聡一。
不満のない穏やかな日々を過ごす夫婦のなかに存在する小さな秘密。
夫婦には何かが足りないのか?夫婦に秘密は必要なのか?
夫婦って本人同士でもわからない秘密があるもんよ。
まして他人にはわからない。
江國さんが描く秘密をもつ夫婦は、まったくドロドロしない、クールで当たり前のような姿で逆に怖い。
●自衛隊のイラク派遣が始まる
戦争が身近なものになっていくのか、なんとなくの不安。
国際社会のなかの日本の立場は?世界で生きることがスタンダードになる。
2004年『思いわずらうことなく愉しく生きよ』
【出版社】光文社
◆◆あらすじ◆◆
麻子、治子、育子の三姉妹
犬山家という同じ家で、「思いわずらうことなく愉しく生きよ」という家訓で育った三姉妹のそれぞれの恋愛物語
同じ家の中で同じように育っても、まったく違う性格・恋愛観を持つ姉妹になるおもしろさを楽しめる物語。
だれが良くてだれが悪いわけではない。
自分らしく生きていく、恋愛をしていくことに自信をもてるようになるよ。
●『思いわずらうことなく愉しく生きよ』秘密メモ
圧倒的に女性の強さが際立つ小説。
リアル社会の平成のやさしい(だけ)の男たちと、自立を目指す女性たちのパワーの格差を象徴しているよう。
そして社会で生きる女性たちに押し寄せる問題もでてくる。
●(当時)マリナーズのイチローが最多安打記録を84年ぶりに更新
不況のなかで自信を無くしている日本人にとって、イチローがアメリカのメジャーリーグで大記録をうちたてたことは、世界で活躍する日本人を誇れるうれしいニュースだった。
2004年『間宮兄弟』
【出版社】小学館
◆◆あらすじ◆◆
30過ぎたモテない男の代表のような兄弟二人の、ほのぼのとした日常が書かれた物語。
二人で暮らし、二人でお互いのことを心配しあう心優しき兄弟に、恋人はできるのだろうか?
優しいだけじゃモテないの。
間宮兄弟も優しさだけをウリにしていちゃ、ダメ(笑)
読むほどに兄弟のお母さんの気分になり二人を応援したくなる物語。
●『間宮兄弟』秘密メモ
江國さんの書く珍しくユーモラスな小説
『間宮兄弟』は映画にもなっていて、演じた佐々木蔵之介さん(兄)とドランクドラゴンの塚地さん(弟)が原作にぴったりすぎて笑えます。
●「冬のソナタ」をきっかけに韓流ブームがおこる
近くて遠い国だった韓国が身近な国に。
優しくて物腰のやわらかく、愛情表現が豊かでストレート、鍛えられた体に色気のある韓国男子が人気になった。