大人気作家の江國香織さん
みずみずしい感性、口にだせない秘めた女心、どこか滑稽な男の恋心を描く江國さん物語。
一度その作品を読むと、虜になってしまう人が続出の魅力ある作家さんです。
小説は想像の世界なので、いつの時代でも楽しめるのですが、その時代にリアルタイムで読んだからこそ楽しいという魅力もあります。
今からタイムスリップして読むのは無理ですが、出版された当時の社会背景を思いうかべながら江國香織さんの本を読んでみませんか?
リアル社会とは無縁ぽいと思われがちな江國ワールドを、リアル社会と照らしてみると面白いよ
- 『きらきらひかる』
- 『ホリーガーデン』
- 『なつのひかり』
- 『流しのしたの骨』
- 『落下する夕方』
- 『冷静と情熱のあいだ Rose』
- 『神様のボート』
- 『薔薇の木、枇杷の木、檸檬の木』
- 『ウエハースの椅子』
- 『東京タワー』
- 『スイートリトルライズ』
- 『思いわずらうことなく愉しく生きよ』
- 『間宮兄弟』
『きらきらひかる』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
妻の笑子はアル中、夫の睦月はホモ
合意のもと結婚した夫婦の日常の葛藤を描く
出版された年の社会背景
単行本出版年:1991年5月(平成3年)
●バブル経済の崩壊
●湾岸戦争が始まる・ソ連が崩壊
日本の暗い不況時代の始まりだが、まだ世間では「まさか」といった感覚だった。
それよりも遠い国で始まった戦争という恐ろしさの方が勝っていた。
小説の秘密メモ
実は夫の睦月とその恋人紺くん、そして妻の笑子のその後が描かれた短編小説があります。
(『ぬるい眠り』にある短編)
二人の結婚生活は続いているのかな?
「え~!」と驚きの展開が待っています。恋愛って難しい。
平成になったばかりの当時、センセーショナルな内容の小説だった!
江國さんの繊細な感覚で研ぎ澄まされた文章が、上手く生きるのが難しい夫婦二人の感情を表現しているよ。
普通と普通じゃない境界線って何なのかな?
『ホリーガーデン』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
しつこく失恋を引きずる果歩と先のない不倫を続ける静江
性格・恋愛観もちがう幼なじみ大人の女二人の友情と恋愛物語
出版された年の社会背景
単行本出版年:1994年9月(平成6年)
●関西国際空港が開港
●F1レーサー、アイルトン・セナがレース中の事故で死亡
セナの死は、華やかなバブル時代に本当の終焉を告げた気がした。
小説の秘密メモ
大人の女の友情と恋愛の難しさがわかる物語。
果歩がつぶやく一言にグサリとする大人も多いはず。
(マニキュアをしているのは)
「そうしないと、自分が大人だっていうことを忘れちゃうからよ」
【江國香織『ホリーガーデン』P113】
この本大好き。でも私の高校生以来の友達はつまらないと言う。
ほら、大人の女の友情は難しいのよ(笑)
それにしても友達との付き合い方や恋愛って、どうして大人になるほど難しくなるのかしらね?
『なつのひかり』
【出版社】集英社
◆◆あらすじ◆◆
21歳になる私と、仲良しの3つ違いの兄を巻き込む夏の不思議な日々の物語。
出版された年の社会背景
単行本出版年:1995年11月(平成7年)
●阪神・淡路大震災発生
●オウム真理教のサリン事件
●Windows95が発売
年始から大地震、続けて前代未聞の大事件発生と暗い一年になった。
一方で、コンピューターが一般家庭に普及が始まり新時代を予感させる年でもあった。
小説の秘密メモ
「これ江國さんの小説なの?」と思ってしまうほど。
現実と過去、不思議な世界を行き来する、ちょっと村上春樹ぽいストーリー展開にワクワク感が感じられる物語。
兄の子どもの名前”陶子”は、江國小説『薔薇の木、枇杷の木、檸檬の木』にも登場する。
江國さんの小説(短編を含める)には同じ名前が多く登場する。
お気に入りの名前なのか、同一人物なのか?
不思議×不思議な小説
頭をやわらかくして読みたい
登場人物のキャラが濃いのも魅力だよ
『流しのしたの骨』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
ことちゃんには、姉そよちゃん、姉しま子ちゃん、弟の律がいる。
4人姉弟の家族の日常は、波乱もありながらもマイペースにすすんでいく。
出版された年の社会背景
単行本出版年:1996年7月(平成8年)
●「O-157」の食中毒が流行
見えない敵、ウィルスO-157の恐ろしさが日本中を巻き込んだ。
小説の秘密メモ
ことちゃんがお付き合いを始める深町直人くん。たくさんの江國香織作品の中で私の一番のお気に入り男性。
深町君とあることに挑戦するために左利きの練習をすることちゃんが、とっても可愛い。
「そうか、家族だけにしかわからない行動や考え方があるんだ」
とそれぞれの家族がもつ不思議な世界に気づかされる。
江國さんが書く「よその家」のおもしろさとあたたかさを感じる物語だよ
『落下する夕方』
【出版社】角川書店
◆◆あらすじ◆◆
長年付き合っていた健吾から「ほかに好きな人ができた」と突然の別れを告げられた梨果は、別れの原因となった華子と同居することになるのだが。
出版された年の社会背景
単行本出版年:1996年10月(平成8年)
●ポケベルの利用者数が過去最高に
ポケベルとともに、PHSサービス等が普及し格安で携帯電話が利用できるようになり、携帯電話の契約数も急増した。
小説の秘密メモ
翌年1997年に中国に返還される香港が出てくる。
まだまだ江國小説のなかには携帯電話の存在はありません(笑)
男女だけでなく、親子でもありがちな好意の卸売り、世話好きさんには痛い一言がある。
自由な女、華子の言葉
「『好意を注ぐのは勝手だけれど、そちらの都合で注いでおいて、植木の水やりみたいに期待されても困るの』」
【『落下する夕方』p.144】
たった一人の女性の登場でまったく違う人生が始まってしまう男女。
人生ってほんとうにわからないな。
それにしても、魔性の女?華子の自由な生き方には憧れる。
『冷静と情熱のあいだ Rose』
【出版社】角川書店
◆◆あらすじ◆◆
舞台はイタリア。
世紀末を目前に再び動き出す!あおいと順正の恋愛
2000年あおいの30歳の誕生日、再開を約束した日を迎える二人の運命は?
出版された年の社会背景
単行本出版年:1999年9月(平成11年)
●EUの単一通貨としてユーロが導入される
『冷静と情熱のあいだ』の舞台となったイタリアを含むヨーロッパは大きな転換期を迎えた年になった。
小説の秘密メモ
辻仁成さんの書く『冷静と情熱のあいだ Blue』と対になっている小説
結末の印象がまったく違うので、必ず2冊セットで読んでほしい。
私は江國さんのRoseを読んでから、辻さんのBlueを読むのがおすすめ。
若い頃のちょっとした心のすれ違いが気になって仕方ない
「2000年」「30歳」など、人生の節目を迎える時ってだれもが陥る現象だよね。
クールで神秘的なあおいの想いが、ひしひしと真っすぐに伝わってくる小説。
読書中、あおい同様、早く順正に会いたくてたまらくなったよ(笑)
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『神様のボート』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
ママの骨ごと溶けるような恋から生まれた私(草子)
消えてしまったパパを待つ、ママ(葉子)と私の漂流の旅が始まる。
ママ(葉子)の恋愛物語でもありながら、娘(草子)成長小説。
出版された年の社会背景
単行本出版年:1999年7月(平成11年)
●ゼロ金利政策が始まった
2年前には山一証券の倒産など、日本は不景気真っ只中(笑)。不況に対する経済対策がとられたが先が見えない暗い社会状況だった。
たくさんの人が、世紀末の「ノストラダムスの大予言」を心のどこかで気になっていた。
私はぜったいにこんな漂流生活ムリ!
娘(草子)の立場で読んだしまったときに思った感想
正直、堅実な人生を送ることがモットーの私には理解が難しい小説だった(笑)
でも葉子さんみたいに、その恋がすべての人生を送るのもアリなのかもね。
『薔薇の木、枇杷の木、檸檬の木』
【出版社】集英社
◆◆あらすじ◆◆
いろいろなタイプ9人の女性たちの恋愛模様が書かれた物語。
登場人物の男女たちが絡み合うストーリー展開がおもしろい。
出版された年の社会背景
単行本出版年:2000年4月(平成12年)
●沖縄サミット開催
沖縄サミット(第26回主要国首脳会議)を記念して、今ではほとんどみかけない二千円紙幣が発行された。
新しい世紀が始まったのに相変わらず不景気の日本。まだ明るい未来はみえない。
小説の秘密メモ
広尾の街を楽しめる小説。
有栖川公園や都立日比谷図書館、公園そばのマック、ケーキ屋さんのエヴァンタイユ、ナショナルスーパーマーケットなどなど。
広尾を散歩しながら小説の世界を楽しむのもおすすめです。
『流しの下の骨』でも広尾の街は登場します。
広尾は江國さんのお気に入り・ゆかりのある街なんでしょうね。
人と人が絡み合い繋がり、この本は何回読んでもおもしい。
自分に似ているのは誰かな?誰のような生き方をしてみたいかな?
自分の生き方に信念をもった強い女性たちの考えや生き方が潔さがいい。
『ウエハースの椅子』
【出版社】角川春樹事務所
◆◆あらすじ◆◆
中年にさしかかった私(38歳)。一人暮らしのマンションにやってくるのは恋人(妻子あり)と妹。
リアルなのか夢の中なのか紙一重のような暮らしの日々と、ひょっこり顔をだす「死」「絶望」。
出版された年の社会背景
単行本出版年:2001年2月(平成13年)
●ニューヨーク同時多発テロ発生
●小泉内閣発足
飛行機がビルに突っ込む映像がリアルなのか、映画なのか?自分の目が信じられなかったのを覚えているし、生涯決して忘れないだろう。
日本では”変人”小泉首相が誕生し、社会の仕組みが大きく変化しそうな期待と不安がただよっていた。
小説の秘密メモ
私にも恋人にも(妹すら)名前はない。
恋人の男性は『ホリー・ガーデン』の静江の恋人に似ている。
余裕のある大人で、水泳をするし、フットワークがよく、アートを仕事にする彼女がいる妻子持ちの男。
あの男が相手を変えて登場したのか!と思うほど。
妻子ある恋人との恋愛小説。
後にも先にも進めない恋愛中にも、年齢だけは確実に進んでいく。
夢の中で生きているような揺れ動く女性心理が、どこか空怖ろしかった。
『東京タワー』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
大人の女性(誌史)との恋愛(不倫)を静かに突き進む透。
同世代の彼女がいながら、年上女性(熟女)好きの耕二。
大人と子どものはざまにいる男子大学生二人の恋愛物語。
出版された年の社会背景
単行本出版年:2001年12月(平成13年)
●3月に大阪にユニバーサルスタジオジャパンが完成
●9月にディズニーシーがオープン
大人も楽しめる巨大テーマパークのオープンが続いた年。
余暇を上手く楽しめる生活を目指し始めた、ゆとり日本の象徴か。
小説の秘密メモ
主人公が男子大学生二人。
女性心を書くのが上手い江國さんの手がけた珍しい小説だ。
江國さんって、女子よりも子どもぽい男子の気持ちを書くのも上手いなと思う。
年上女性に憧れる若い男の子たちは、どうして年を取ると若い女の子が好きになる(笑)?
10年20年後の透と耕二の恋愛をみたくなる。
『スイートリトルライズ』
【出版社】幻冬舎
◆◆あらすじ◆◆
人形作家の瑠璃子と2歳年下の夫、聡一。
不満のない穏やかな日々を過ごす夫婦のなかに存在する小さな秘密。
夫婦には何かが足りないのか?夫婦に秘密は必要なのか?
出版された年の社会背景
単行本出版年:2004年3月(平成16年)
●自衛隊のイラク派遣が始まる
戦争が身近なものになっていくのか、なんとなくの不安。
国際社会のなかの日本の立場は?世界で生きることがスタンダードになる。
夫婦って本人同士でもわからない秘密があるもんよ。
まして他人にはわからない。
江國さんが描く秘密をもつ夫婦は、まったくドロドロしない、クールで当たり前のような姿で逆に怖い。
『思いわずらうことなく愉しく生きよ』
【出版社】光文社
◆◆あらすじ◆◆
麻子、治子、育子の三姉妹
犬山家という同じ家で、「思いわずらうことなく愉しく生きよ」という家訓で育った三姉妹のそれぞれの恋愛物語
出版された年の社会背景
単行本出版年:2004年6月(平成16年)
●(当時)マリナーズのイチローが最多安打記録を84年ぶりに更新
不況のなかで自信を無くしている日本人にとって、イチローがアメリカのメジャーリーグで大記録をうちたてたことは、世界で活躍する日本人を誇れるうれしいニュースだった。
小説の秘密メモ
圧倒的に女性の強さが際立つ小説。
リアル社会の平成のやさしい(だけ)の男たちと、自立を目指す女性たちのパワーの格差を象徴しているよう。
そして社会で生きる女性たちに押し寄せる問題もでてくる。
同じ家の中で同じように育っても、まったく違う性格・恋愛観を持つ姉妹になるおもしろさを楽しめる物語。
だれが良くてだれが悪いわけではない。
自分らしく生きていく、恋愛をしていくことに自信をもてるようになるよ。
『間宮兄弟』
【出版社】小学館
◆◆あらすじ◆◆
30過ぎたモテない男の代表のような兄弟二人の、ほのぼのとした日常が書かれた物語。
二人で暮らし、二人でお互いのことを心配しあう心優しき兄弟に、恋人はできるのだろうか?
出版された年の社会背景
単行本出版年:2004年10月(平成6年)
●「冬のソナタ」をきっかけに韓流ブームがおこる
近くて遠い国だった韓国が身近な国に。
優しくて物腰のやわらかく、愛情表現が豊かでストレート、鍛えられた体に色気のある韓国男子が人気になった。
小説の秘密メモ
江國さんの書く珍しくユーモラスな小説
『間宮兄弟』は映画にもなっていて、演じた佐々木蔵之介さん(兄)とドランクドラゴンの塚地さん(弟)が原作にぴったりすぎて笑えます。
優しいだけじゃモテないの。
間宮兄弟も優しさだけをウリにしていちゃ、ダメ(笑)
読むほどに兄弟のお母さんの気分になり二人を応援したくなる物語。
この記事で紹介した江國香織本リスト
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