大人気作家の江國香織さん
日本語の美しさを感じられる江國さんの小説は、世代を超えて多くの人たちから愛されています。
小説は想像の世界なので、いつの時代でも楽しめるのですが、その時代にリアルタイムで読んだからこそ楽しいという魅力もあります。
今からタイムスリップして読むのは無理ですが、出版された当時の社会背景を思いうかべながら江國香織さんの本を読んでみませんか?
前回に引き続き、今回は2005年以降に出版された長編小説を紹介しますね。
江國さんも人気作家として順調に作家人生を送っていて、書いている小説も「江國色」がどんどん強くなり「江國ワールド」が強くなっているね
- 『赤い長靴』
- 『がらくた』
- 『左岸』
- 『真昼なのに昏い部屋』
- 『抱擁あるいはライスに塩を』
- 『金米糖の降るところ』
- 『はだかんぼうたち』
- 『ちょうちんそで』
- 『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』
- 『なかなか暮れない夏の夕暮れ』
- 『彼女たちの場合は』
- 『去年の雪』
『赤い長靴』
【出版社】文藝春秋
◆◆あらすじ◆◆
日和子(来年40歳)と逍三は結婚して10年の中年夫婦(子なし)
理解できないこともたくさんあるけれど、お互いに自分には相手が必要で、相手には自分が必要だと思っている夫婦の物語(連作短編集)
出版された年の社会背景
単行本出版年:2005年1月(平成17年)
●世界各地でテロが相次ぐ
●鳥インフルエンザがアジアで猛威をふるう
●楽天、ライブドアのテレビ局株大量取得
ウィルスやテロといった恐怖に怯えた一年
IT企業の躍進が目立ち、未来へ向かって新しい日本の姿が見え始めてきた
小説の秘密メモ
江國小説の夫婦のなかでは、もっとも一般的な夫婦、日和子と逍三。
なぜなら、どちらも不倫をしていないから(笑)
二人きりの夫婦
お互いに理解してそうで理解できない夫と妻
人の話を聞いていない夫、夫を子どもぽいと呆れながらも実は頼りにしている妻
「あ~、よくあるある」とごくごく当たり前の夫婦の姿が書かれていて、おもしろかったよ
『がらくた』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
柊子(45歳)と夫(原武男)の不思議な夫婦の物語
夫婦関係とは別にお互いの恋愛を認め合っている二人の前に、美しい15歳の少女美海が登場する。
出版された年の社会背景
単行本出版年:2007年5月(平成19年)
●食品偽装事件が日本各地おこる
●安倍首相が突然の辞任
信じていたものに裏切られた感が日本全国に広まった食品偽装問題。
このころから、今まで当たり前だったことをカンタンに信じていいのか?と、不信感を国民がもつようなる社会になった気がする
小説の秘密メモ
夫婦の関係はそれぞれ。普通のかたちなんてないけれど。
じゃあ、どうして夫婦という関係が存在するのか?と疑問がわいてくる小説。
夫婦の間には恋愛はないのか?
イヤ、恋愛があるからこそ夫婦でいられると思いたい
自分が結婚するとさらに、江國さんの書く夫婦関係は理解が難しくなる(そこがまた面白い!)
『左岸』
【出版社】集英社
◆◆あらすじ◆◆
茉莉は10歳の時の事件によって幸せな子ども時代が一変してしまう。
高校生になった茉莉は駆け落ち、その後、妊娠、結婚、数々の男たちとの出会いと別れを経験する。そんな茉莉の人生には、いつもどこかに幼馴染みの祖父江九の影があった。
茉莉の半生が書かれた大長編小説。
出版された年の社会背景
単行本出版年:2008年10月(平成7年)
●安倍、福田、麻生と短命内閣が続く
●株価がバブル後最安値に
●金融危機 世界で株価暴落
長く続いた不況時代に少し明るさが見えていた日本に衝撃的なパンチが!
米国発の金融危機を発端として、世界中に不況の嵐が吹き荒れた。
小説の秘密メモ
『冷静と情熱のあいだに』に引き続き辻仁成さんとの連作小説。
辻さんは『右岸』を書いています。こちらの主人公は茉莉の幼馴染・祖父江九。
彼は超能力者という衝撃的な展開のストーリーになっています。
かなり長めの小説だったよ。
波乱万丈の茉莉の人生に、どんどん引き込まれた。
自分では体験できないであろう茉莉の人生を疑似体験できる。
小説ってほんとうにおもしろい!
『真昼なのに昏い部屋』
【出版社】講談社
◆◆あらすじ◆◆
社長夫人の美弥子さんは「きちんとしたこと」が好きな主婦。大学の先生アメリカ人のジョーンズさんは、そんな美弥子さんに惹かれている。美弥子さんもジョーンズさんを知れば知るほど彼のことを考えるようになってしまう。二人の恋の行方は?
出版された年の社会背景
単行本出版年:2010年3月(平成22年)
●中国が日本を抜いてGDP世界第二位に
世界でも日本の地位が落ちていくのか、先行きの見えない社会がつらかった。
小説の秘密メモ
ジョーンズさんと美弥子さんの関係は、どんどん変化していきます。時間がたち関係性が変わると、同じ人同士の間に、どうして違う雰囲気の空気が流れ、気持ちも変わってしまうんでしょうか?
永遠の謎です。
同じ関係を維持できないからこそ、自分も変わり続けていかなくちゃ恋愛は続かないのかもしれないな
『抱擁あるいはライスに塩を』
【出版社】集英社
◆◆あらすじ◆◆
東京の洋館で三世代で暮らす裕福な家庭の柳島家。
複雑な家族関係のなかで暮らす、風変わりな一族の百年にわたる物語。
出版された年の社会背景
単行本出版年:2010年11月(平成22年)
●スティーブ・ジョブズ率いるAppleが世界的企業に
カリスマCEOジョブズの生き方や経営方針、仕事への向き合い方が日本でも大きく取り上げられるようになる
小説の秘密メモ
時代がいったりきたりするストーリー展開と、家族の数が多いので名前を覚えるのも、家族関係を整理するのも大変。
でもそれだけに、どんどん家族の謎が解けていくのがおもしろい。
外からは見えにくい家族の内情
江國さんの書く家族はどんどんミステリアスになってきたな。
『金米糖の降るところ』
【出版社】角川書店
◆◆あらすじ◆◆
ブエノスアイレス近郊で育った佐和子とミカエラ姉妹の物語。
二人は留学のため日本へ。佐和子は達哉と結婚し、ミカエラは達哉に想いがありながらもアルゼンチンに帰国する。
20年後、佐和子は不倫相手とともに突然ブエノスアイレスに戻ってきた。
出版された年の社会背景
単行本出版年:2011年10月(平成23年)
●東日本大震災・原発事故が起きる
3月11日大地震が起き首都東京も大混乱に陥った。また福島原発で原子炉建屋が大破し放射性物質が大量に放出される大惨事になった。
経験したことのない大混乱が日本を襲い、社会的不安は最高潮に。
ただ、それをきっかけに日本全体で助け合いの心が広がった。
小説の秘密メモ
実際に江國さんにも妹さんがいる。
二人は仲良しで、雑誌の企画で往来書簡もやっていたほど。
姉妹二人の小説を書くのは江國さんにとっても特別なものなのかもしれないな。
二人の姉妹の仲良しさが生む憎しみと悲しみがある
でも家族・姉妹の関係は続いていく。
姉妹が、それぞれ女として生きる力強さを感じた小説だったな
『はだかんぼうたち』
【出版社】角川書店
◆◆あらすじ◆◆
桃 35歳独身 歯科医師
鯖崎 桃の9歳年下の彼氏
響子 桃の親友 やんちゃをしていた夫と4人の子どもがいる主婦
山口 60歳目前の初老男性 家族を捨てて桃の母親と同棲していた
男女のこじれまくる恋愛模様が始まる
出版された年の社会背景
単行本出版年:2013年3月(平成25年)
● TBS系ドラマ「半沢直樹」がブーム
現実社会での経済の好調も関係したのだろうか?、都市銀行を舞台にしたお仕事系ドラマが人気になった。
小説の秘密メモ
『流しの下の骨』でも広尾の街は登場します。
広尾は江國さんのお気に入り・ゆかりのある街なんでしょうね。
人が人に惹かれ合うきっかけってなんだろう?
肩書や見た目ではない、 生理的に惹かれ合う、野生の臭いみたいのがあるのかな?
自分にぴったりの人にはビビビとくるのだろうか?(あ、でも「ビビビ、ときた」といった松田聖子は離婚したし、ちがうか(笑))
『ちょうちんそで』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
雛子(54歳)若いが一人で老人マンションに住んでいる(架空の妹と一緒)
マンションでは、人生の終盤を迎えつつある人たちの秘密が明らかになっていく。
人間の本当の姿が見えてくる小説
出版された年の社会背景
単行本出版年:2013年1月(平成25年)
●アベノミクス始動
●2020東京オリンピック決定
アベノミクスにより経済が好調に。加えて2020東京オリンピックが決定し、日本中に明るい雰囲気になった。
小説の秘密メモ
江國さんにしては珍しく色気のない小説。
人間の性がみえる、人間らしい登場人物たちがリアルだ。
これから高齢社会が進むにつれて、老人向けマンションに暮らす人々が増えてくるだろう。
どこに住んでも、年をとっても、他の人の秘密や謎が気になるだろうな(笑)
『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』
【出版社】朝日出版社
◆◆あらすじ◆◆
虫と話せる不思議ちゃん拓人(幼稚園児)、めんどうみのいい育美(小2)、恋愛体質の父耕作、父を待ち続ける母奈緒。
あやういバランスを保ちながら暮らす家族の物語
出版された年の社会背景
単行本出版年:2014年11月(平成26年)
●御嶽山が噴火 57人死亡6人不明
●STAP細胞論文の捏造改ざん騒ぎ
突然の自然現象の怖さを、再び思い知ることになった。
また「リケジョ」という言葉を生んだSTAP細胞論文騒ぎは、自殺者までがでるほどの大騒ぎになった。
小説の秘密メモ
不思議少年拓人くんの気持ちが、すべて”ひらがな”で書かれている文章が続く部分がある。
読みにくいけれど、ひらがなが拓人くんのナイーブな気持ちを上手く表現している。
家族の在り方はそれぞれ
でも、子どもは生まれる家族は選べない
江國さんの本を読んでいると、何が幸せなのかわからなくなってくる
『なかなか暮れない夏の夕暮れ』
【出版社】新潮社
◆◆あらすじ◆◆
資産家の本好き独身男、稔50歳が主人公
娘の波十(はと)、元恋人で波十の母の渚、学生時代からの友達の大竹と淳子、姉の雀
現実感がうすい男が、現実を生きる物語
出版された年の社会背景
単行本出版年:2017年2月(平成29年)
●天皇退位が2019年4月末に決まる
●アメリカのトランプ政権発足
天皇の生前退位が決定し、平成があと2年で終わることに。
アメリカでは驚きの選挙結果によりトランプ氏が大統領に任命される。彼の独創的な政権運営がアメリカ社会の混乱を招くようになる。
小説の秘密メモ
主人公の稔は、恋愛には興味が薄く、本が好きという江國ワールドでは珍しいタイプの男性
文章の途中で突然、ロシアの小説(稔が読んでいる本)がはじまり、リアルな世界と、本の世界を行き来する不思議な小説
ロシアの小説の方が波乱万丈のストーリー展開で気になる(笑)
浮世はなれした、本を愛する稔の気持ちはなんだか理解できる部分も多い(笑)
私だって生きていくだけのお金があれば、本に囲まれて本の中で生きる人生を送りたいわ。
『彼女たちの場合は』
【出版社】集英社
◆◆あらすじ◆◆
従妹同士の14歳の礼那 17歳の逸佳。二人が親に内緒の旅にでる
(家出ではないし、親のクレジットカードを持って)
舞台はアメリカ、1年にわたる女子二人の旅の物語。
出版された年の社会背景
単行本出版年:2019年5月(平成31年(令和元年))
●平成の天皇陛下が退位 令和に改元
●消費税10%に引き上げ
不況から始まり、災害の多かった平成が終わった。
新しい世代が始まるとの期待が高まる一年。
小説の秘密メモ
日本では感じられないであろう、アメリカの広大な土地と、雄大さ、たくましさを感じられる小説。
10代の女の子ふたりで広大なアメリカを旅する!
自分はもう体験できない経験を、本を読みながら一緒に旅している気分になれた。
『去年の雪』
【出版社】角川書店
◆◆あらすじ◆◆
登場人物100人以上!
人々の普通の日常が絡み合いながら、時空を超えて行き来する物語
出版された年の社会背景
単行本出版年:2020年2月(令和2年)
●新型コロナウィルスが世界的に流行
信じられないが、一つのウィルスが世界を一変させた。
小説の秘密メモ
なにこれ、いつの時代!?
あれ、この人さっき出てきたよね
あれ、この人だれだっけ?
江國ワールドにて、挑戦的ともいえる”あたまの体操”になるストーリー展開
江國さんの文章をゆっくり咀嚼するように楽しむ
いつもの江國小説の楽しみ方では頭がついてこない(笑)
登場人物を忘れないうちに、どんどん本を読むのがおすすめ。
壮大な物語を終えた後、「自分もこの中のひとりなんだな~」という気持ちになった。
2005年以前、1991~2004年までの江國香織さんの長編小説を紹介した記事も合わせて読んでみてくださいね。
この記事で紹介した江國香織本リスト
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