茶箱
当たり前のように見えていた世界を失う
アートを見ることが生きがいだった女性にたちはかだる絶望 彼女は絶望にどう向き合うのか?
彼女の気持ちを読み取る問題が、中学受験で出題されたわよ
『常設展示室』原田マハ
【著者】原田マハ
【出版社】新潮社
短編「群青」が2020淑徳与野中学の入試問題(国語)で出題されました。
原田マハ『常設展示室』あらすじ・読みどころ
アートと小説を結び付ける原田マハさんが描く6つの短編集
アートとの関りの深い生活を送る女性たちの物語
アートのもつ不思議な力がストーリーの鍵となっている
*ピカソ・フェルメール・ラファエロ・マティスの絵が登場する
短編「群青」
「緑内障で近い将来目がみえなくなる」と診断された美青(みさお)
今まで必死に勉強し、両親もかえりみず手に入れた、憧れの仕事メトロポリタン美術館の学芸員として働いている彼女に下された強烈な宣告
彼女の生きがいアートが見られなくなる・必死に手に入れた仕事を失う恐怖が彼女を襲う
そんなときに出会ったのが生まれたときに弱視の少女
少女との出会いをきっかけに、彼女も新しい生き方を模索しようと決める
●主人公
ニューヨークのメトロポリタン美術館で働く日本人女性の美青
●鍵となる絵
ピカソ <盲人の食事> 1903年に書かれたピカソの青の時代の作品
(アメリカニューヨークのメトロポリタン美術館の常設展示作品)
2020年淑徳与野中学の入試問題(国語)を解いてみた
出題された短編は「群青」
物語の後半部分
「緑内障で近い将来目がみえなくなる」と診断された美青が、子どもを対象にしたワークショップの企画変更を提案するシーンから
ワークショップでピカソの絵画<盲人の食事>を目の前にして、子どもたちや、弱視の少女が心で素直に絵を見ているシーンまで(短編の最後まで)
● 文章問題量は多め
➡主人公はアメリカの美術館で働く大人の女性、彼女を上手に想像できれば読みやすくなる
➡文章に英語がでてくる。読めなくても問題なしだけど、びっくりしちゃうかもしれない
● 記述式あり
● 目が見えなくなる恐怖をもつ女性の気持ちを読み取る
➡自分が病気にならないとなかなか健康のありがたさに気づきにくいから、健康で元気いっぱいの中学受験生には感情移入しにくいかも
● ピカソの人生を知っているとさらにこの物語に重みがでる
茶箱
この物語になぜピカソの絵がでてくるのかを知っていると、読み取りが深まると思うわ
巨匠ピカソについて知るきっかけにもなるわね
ピカソの青時代は、ピカソのまだ若い頃20代前半ころ
1901年から1904年基本的に青や青緑の色合いのモノクロームの絵画を描いた時代
友人の死などで当時のピカソは深刻な鬱病に陥り、その絵画は青の色調に支配されるようになった。
この時期のピカソは、渋い色使いと、時に悲しげな題材(孤独、貧困、絶望)・孤独な人物(娼婦、乞食、酔っぱらいなど)を選んで描いていた。
【参考:wikipedia「青の時代(ピカソ)」より】
茶箱
大人の私は健康も下向きになり、体のあちこちにガタがきはじめた大人の私が読むと、ぐっと心にせまってくる物語だったけれどね
まだまだ、ピカピカの肌をもち、健康の心配などしたことがない中学受験生が読んで、この女性の気持ちを理解するのは難しそう
物語は、視覚障害のたいへんさや目が見えなくなる恐怖が書かれているわけじゃないのよ
大事なのは、今まで当たり前にあったもの(視力)を失って(失いそうになって)、初めて気づくことがあることを、感じ取れれば問題を解きやすくなるかな
原田マハ『常設展示室』役立つちょこっとメモ
中学受験生へのおすすめ度
★★(3点満点中)
中学受験生におすすめ短編は「群青」と「道」
「道」は幼いころに生き別れてしまった兄と妹の物語
原田マハのアート小説を味わうにはおすすめですが、基本的にどの短編も大人向けの物語なので、中学受験生が読んで「面白い」とは思えなさそう。
●原田マハさんは1962年生まれ。
美術館のキュレーターとして活躍した後、小説家デビューした。
茶箱
2020淑徳与野中学の入試問題で出題された、原田マハさんの短編「群青」(『常設展示室』)は、なかなか手ごわい入試問題だったわ
人生を勢いよく走り続けてきた大人が、ふと体に感じる異常によって、生き方を変えなければならなくなる
今までの生き方を振り返り、次の人生のステップを踏み出す
ピカソの絵画を通して、前向きになっていく大人の女性の気持ちを読み解くことが求められるわよ
*読みどころや試験問題の感想は、あくまでも私個人の意見です。
続けて学ぶための本は?
『もっと知りたいピカソ 改訂版』
ピカソの膨大の絵、ピカソの人生を知ろう!
原田マハ『暗幕のゲルニカ』
原田さんの書いたピカソを主人公にした作品
華やかな、激しい男女関係ありの物語なので大人向け