和菓子好きな人必読書
日本の和菓子界のキングともいえる「虎屋」の歴史がわかる本です。
ただこの本は和菓子の作り方や、「虎屋」にはどんな和菓子があるのかという本ではありません。
「虎屋」が500年にもわたりどうしてお店を守ってこられたのか、第一線で活躍しているのかがわかる本になっています。
ビジネス本でもあり、歴史本でもありますよ。
『虎屋 和菓子と歩んだ五百年』黒川光博
【著者】黒川光博
【出版社】新潮社
今が続く保証はないことを知っておくことが大事
著者の黒川光博さんは和菓子屋「虎屋」の17代目当主
虎屋の歴史はとても長く、創業は室町時代にさかのぼります。
天皇に初めてお菓子を納めたのは後陽成天皇(1586-1611)の時代だそうですよ。
「虎屋」は京都を発祥の地として、明治維新とともに東京へ進出し、現在に至ります。
「会社は100年続くだけでも大変」といわれているなかで、500年もの間のれんを守り通している驚きの会社でもあります。
創意工夫と新たな挑戦が不可欠
代々黒川家で続けてきた「虎屋」
「虎屋」の歴史を紐解くと、さまざまな創意工夫が各時代におこなってきたからこそ、今でも菓子界の第一線で活躍できていることがわかります。
特に京都から東京に移ったときは、かなり大変だったようです。
京都と東京は今では新幹線で3時間足らずの都市ですが、明治時代にははるか遠い場所だったでしょう。
しかも、当時の京都からみたら、東京はどんな田舎の地だったのでしょうか?
今でも関東と関西では味の感覚も違いますし。
想像するだけでも、おそろしくたいへんな引っ越しだったことが想像できます。
500年もの間のれんを守るには、その時代ごとに新しいことに挑戦する、創意工夫が欠かせないことがわかりますよ。
研究と調査が支える挑戦
おもしろいことに「虎屋」は菓子作りだけをおこなっているわけではないのです。
なんと、菓子を製造するだけでなく2つの研究所を抱えています。
ひとつは、和菓子を文化的な面から研究・調査する「虎屋文庫」
そして、科学面から和菓子を研究する「虎屋総合研究所」
菓子も新しい和菓子に挑戦しています。
「TORAYA CAFE」という新しいブランドでは、餡をベースにした和菓子の概念を超えた菓子の販売も始めています。
500年もの間のれんを守る、第一線で活躍するには、多方面からのアプローチが不可欠なんだと思いますね。
研究や調査って、大事だと思っていても実際は目の前の仕事に追われて手を付けられないことも多いと思いますが、そこで挑戦するかしないかが、残る会社と残れない会社の違いなのかなとも感じましたよ。
「虎屋」の経営の歴史が、今の未曽有の時代にもなにか参考になればいいですね。
500年の歴史を彩る人々
虎屋の和菓子大好きな人は500年もの間にたくさん!
和菓子好きの私たちの先輩たちは、時代を彩ってきた人たちばかりですよ。
後陽成天皇 (在位は秀吉の天下統一後 から家康政権確立まであたり)
光格天皇 (江戸時代後期 在位1779-1817)
明治天皇
昭和天皇
徳川光圀
徳川家茂
渋沢栄一
三菱財閥 岩崎家
天皇から将軍、貴族・政界の有力者たち、陸海軍、茶の湯へと「虎屋」好きの層は広がっていきます。
虎屋のお得意様をみると日本の歴史と大きく関連していることがわかりますね。
その時代時代ごとに、力をもっていた有力者たちが、こぞって虎屋の菓子を愛して食べ楽しみ、さらに贈り物として利用していた様子がわかります。
まとめ
『和菓子と歩んだ五百年』を読むと、お店を続けていくために必要なことは、創意工夫と新しいことに挑戦すること。
そしてそれを支えるのは研究と調査だとわかりました。
天皇や有力者に愛され続けている「虎屋」でさえ、「ただなにもなく気づいたら500年が過ぎていました」というなんてことはないのです。
誠実に商売をするのは当たり前で、その上に新しい挑戦や創意工夫があってこそ500年もの歴史を守ってこられたのだとわかります。
歴史の教科書にでてくる人々も、お菓子が好きだったことがわかるのもおもしろいですよ。歴史上の人物だった人たちが「虎屋」の菓子を通じて身近な人に思えてきます。