2021年4月18日更新
ほんのりと甘ったるい、こうばしい、ゆるやかな空気感があふれでる文体で語られる江國香織ワールド。
それまで教科書で学ぶ小説しか知らなかった私にとって、はじめて江國作品を読んだときの江國香織さんの文体はものすごい衝撃でした。
それからはや数十年。
わたし、今でも江國香織ワールドにどっぷりはまっています。
私が読み続けてきた江國香織さん作品の中から、今回は「家族」を描いたおすすめ小説を紹介します。
江國香織ワールド「家族」にようこそ
江國香織さんの描く不思議な家族 おすすめ小説5冊
江國香織ワールド「家族」
家の外からは見えない、すごい ひみつ がつまっているのかもしれない
「当たりまえ?当たりまえじゃない世界が広がるよ」
「あれ?我が家ってへんじゃない?」って思っている人に、特におすすめの小説5冊です。
江國香織さんとは?
1964年東京生まれ。
お父様は江國滋さん
1987年「草之丞の話」で「小さな童話」大賞を受賞。以後さまざまな賞を受賞している人気の女性作家さんです。
江國香織『流しの下の骨』
ぞっとするタイトルとおだやかなストーリーのギャップが魅力
大学生の頃に何回も何回も読んだ本。私にとって、とても想いが強い本です。
初めてみた時にタイトルにびっくりした記憶があります。
あ!でもこの本はミステリーではないので殺人事件もなにも起きませんのでご心配なく。
殺人事件どころか大事件が起きるわけではなく、まあ家族の中によくありそうな問題がボツボツと勃発しては、落ち着いてまたもとのおだやかな生活がもどってくる。
事件が起きて、家族で「あらあら」と問題を受け入れて、なんとなく解決して、毎日毎日の生活が家族の中で繰り返されるのです。
ストーリーは穏やかにすすみます。というか流れていく感じ。
けっしてお母さんが大声でどなったり、お父さんがちゃぶ台をひっくり返したりはしません(笑)
この小説の仲良し一家は、のほほんとしているだけの家族ではない。
実はだれもがシンのつよい人たちが集まっている家族だというのが魅力的です。
私が大好きなシーンは、彼氏と手をつなぎながらご飯を食べるために左手でご飯を食べる練習をすること子ちゃん。
私もマネしたことも思い出します(笑)。
江國香織『間宮兄弟』
いい人だけど、恋愛関係には絶対ならない兄弟の魅力とは
映画にもなっているので知っている人も多い小説。
いい年をした兄弟ふたりは、一緒に暮らしていていつも一緒。仲良しでほほえましいのか?ちょっと気持ち悪いのか?と判断が難しい(笑)
間宮兄弟も、江國ワールドの描く不思議家族のひとつです。
間宮兄弟とはどんな二人なのかというとこのフレーズを読めば、かなりはっきりしたイメージがわきます。
ふたりの共通は女性にもてないこと、独特な生活スタイルがあること。
歯磨きもシャンプーもおこたらず、心根のやさしい間宮兄弟ではあったが、現に彼らを知っている女たちの意見を総合すれば、格好わるい、気持ちわるい、おたくっぽい、むさくるしい、だいたい兄弟二人で住んでいるのが変、スーパーで夕方の五十円引きを待ち構えて買いそう、そもそも範疇外、ありえない、いい人かもしれないけれど、恋愛関係には絶対ならない、男たちなのだ。
「あ~、いるよねそんな男」「え?もしかして俺?」「これってうちのお兄ちゃん(弟)か?」と思ったら、ぜひ読んでみて。
彼らのお互いを想う兄弟愛が、なんだか笑えてくる本です。
江國香織『思いわずらうことなく愉しく生きよ』
なかなかのクセをもつ三姉妹のそれぞれの生き方
長女の麻子 幸せそうな結婚生活を送っているようだけど。
次女の治子 仕事ができて強気な生き方をしているようだけど。
三女の育子 生き方も考え方も風変りな感じがするけれど。
この本で描かれる江國香織ワールドは、三姉妹と父親・母親の家族。
彼女らはそれぞれが独立して別々に住んでいますが、やっぱり家族なんです。
小説のタイトルどおり、三姉妹(父親母親も)はそれぞれの人生をそれぞれ自分なりに生き抜いている。
それが、どんな方法でもやり方でも、世間的には「え!」とびっくりされるような生き方であっても、自分が決めて、自分が納得して、愉しんでいるのだからいいんだと。
犬山家には家訓があった。人はみないずれ死ぬのだから、そして、それがいつなのかわからにのだから、思いわずらうことなく愉しく生きよ、というのがその家訓で、姉妹はそれをそれぞれのやり方で宗としていた。
そんな家訓どおりに生きてきて愉しかったはずなのに、なんだかどんどん愉しくない?方に流れて行ってしまう。
「なにかがおかしい?」「今までと同じじゃいけないんだ」、愉しい生き方を途中から忘れてしまったような、急になにかが変化し始めたと気づきはじめた三姉妹&父親・母親の家族のあり方。
それぞれの生き方はどうなるのか気になったらぜひ読んでほしいです。
江國香織『抱擁、あるいはライスには塩を』
三世代百年にわたるドラマチックな家族
東京神谷町にある大正時代の西洋建築の豪邸に暮らす鍋島家。
「こんなところに住んでいる人間がいるなんて信じられなかった。」といわれるような大邸宅に住み、世間体とかは考えない浮世離れした家族が、この『抱擁、あるいはライスには塩を』では描かれます。
家族の面々はロシア人の祖母、子どもを学校に通わせない教育方針、叔父や叔母も一緒に暮らす環境、四人の子供の父や母にも秘密があったり。
建物(外観上)といった外から見えない、その建物の中で暮らす家族はさらに秘密と不思議でみちみちている。
1968年晩春から2006年晩秋にわたる壮大なストーリで、家族ひとりひとりにいろいろなドラマがある。
舞台は世代を超えて日本をでて海外にも及ぶ人生を語りつくすという、ドラマチックな小説でもあります。
長編小説で登場人物が多いうえに、読み始めると鍋島家ストーリーにどっぷりとはまってしまうので、時間があるときに一気に読みたくなる本です。
長い素敵な映画をみているような気分になれる、週末やお休みの日に読むのがおすすめ。
江國香織『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』
あやうい関係の家族を子どもの目線からみたら
幼稚園児のマイペースで虫と話すことのできるという不思議ちゃん拓人
小学2年生の弟思いでめんどうみのいい姉育美
恋人とのことをまったく隠さない恋愛体質?の父耕作
父を家で悶々と待ち続ける母奈緒
どことなくお互いに気を配りながら生きている4人家族が、この『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で描かれます。
かなりあやうい家族で、ぎりぎりのところでバランスをとっているような。
この先がたいへん心配になります(笑)。
この本には、ストーリーの途中に急に不思議ちゃん拓人くんが語りだすおもしろい部分がありますよ。
(この部分はほとんどひらがなで書かれている)
このひらがなの部分を読むと、拓人くんは何も考えていないようでも、いろいろ感じているんだよね~とぎゅっと抱きしめてあげたくなります。
幼稚園生拓人くんの目線でみた家族、姉のやさしさと心配を抱えるナイーブな気持ちや父と母の微妙な関係を、ひらがなで読むと小さな拓人くんの気持ちが少し見えるような気分になります。
こんな風に拓人の気持ちを書き出せる江國さん。もしかして江國さんは覚えているのかもしれない?!と思わせます。
自分が小さな頃感じたことや思ったことは、今はほとんど忘れちゃっていることに少しさみしさを感じてしまいます。
大人では感じられないだろう、子どもの感受性は侮れないな、うらやましいなと思える本です。
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本『流しの下の骨』のあとがきに江國さんが書いているこの文章が、江國さんの家族を見る目線なんだと思います。
よそのうちのなかをみるのはおもしろい。
その独自性、その閉鎖性。
たとえお隣でも、よそのうちは外国よりも遠い。ちがう空気が流れている。階段のきしみ方もちがう。薬箱の中身も、よく口にされる冗談も、タブーも、思い出も。
それだけで、私は興奮してしまいます。
江國香織さんが書く不思議な「家族」小説5冊読んでみてくださいね。
今回紹介した本はこちら